U.吉井川上流域の河川と渓流畔林調査(2010.8)


5.河川現況調査結果<総括>

津山市街地から上流域の吉井川水系の河川現況と流域の植生状況について目視調査を行い、同時に魚類などの生息状況について地元民に話を聞いた結果を合わせて各支川ごとにまとめた。それらの調査結果は河川番号No1〜No35の現況調査結果表に記したとうりである。これらの調査結果を総括すると以下のようである。

<調査結果の総括>

1).河川状況
  それぞれの川はその流域が市街地、農耕地、山間地などによってその河道状況が大きく異なる。
@.護岸固めや三面張りにより固められた川で、魚のほとんどいない川
  3.久米川支川、6.小座川・真加部川、7.仮)赤野川、21.戸島川・農業用水路、22.市街地用水、24.鵜ノ羽川、26.後川・蟹子川・古川、などの水田域あるいは市街地を流れる川で、流路長の半分以上が護岸固めや三面張りで固められ、魚の住めない川となっている。
A.自然状態の区間が30%以下で水草自生護岸が50〜100%を占める川
  2.久米川、4.宮部川、9.東箱川・養野川等、18.香々美川下流域、23.横野川、27.加茂川下流域、29.正念寺川・高下川、31.原口川・堂ヶ原川、などの川である。
これらは奥津湖〜鏡野町真経〜加茂町宇野を結ぶ東北東の線から南側の河川である。川沿いに集落と農地が開け護岸の整備された川である。そのうち、川幅の小さい支川は河川勾配がやや急で、段差工や床固工・砂防ダムなどが入り、魚の住処が少なく魚の生息しづらい川である。
 一方、川幅の広い香々美川下流域と加茂川下流域は自然状態の流れに近く、昔ながらの魚が生息している。
B.自然状態の区間が50〜100%を占める自然豊かな川
  上記@.A.以外の川は自然状態の区間が56%以上、多くは70〜95%を占め、人の手の入らない自然の流れを呈する川である。川の流れは瀬・瀞・淵が有り魚の住処も多く、昔からの魚の住む自然豊かな川である。これらの川沿いは平地・農地・集落が小規模で少なく、自然状態の山間地として残り、昭和50年以降の河川改修があまり行われていない所である。
 一方、1.吉井川上流域(自然状態38%)と34.青柳川・物見川(自然状態44%)は水草自生護岸が62%〜53%を占める。そのうち吉井川上流域は川幅が広く護岸が後へ下がっているため、川の流れはほぼ自然状態に近い流れであり、昔からの魚が生息している。反面、青柳川・物見川の本流は護岸整備されているため魚相が乏しいが、その支流は自然状態にあるため自然状態の比率は大き目に現れている。

2).植生
  流域の山地の植生は地域により特性がある。
@.奥津湖〜加茂町下津川の南を結ぶ東西線から南の混交林主体地域。
A.奥津湖より上流の吉井川流域の混交林優勢地域。
B.上斎原国有林、倉見川流域の県有林、加茂川上流域の企業林などの植林地域。
C.上記以外の植林優勢地域。
 @は植林と雑木林が混在し、山の30%〜70%を植林または雑木林が占め、場所によって植林あるいは雑木林が優勢となる混交林相を呈する。植林は地主が個々に植樹したもので、広大な範囲が単一植生となっていない。また、市街地周辺の丘陵地は田畑・宅地と雑木林、植林が混在している。
 Aは鏡野町地域の植林で、山の30%〜70%を植林が占め、他を雑木林として意識的に残した“まだら模様”の混交林が特徴的である。このため見た目には自然に優しい感じが残る。山地の降雨による表土の流失や斜面崩壊は少なく、腐葉土が形成され、水源涵養能力を保持し、虫・小鳥・小動物も生きてゆける生物全体に優しい環境が残っているように見受けられる。鏡野町の人達は自然をよく知っており、自然と環境に優しく、調和的な植林に心がけたことが伺える。
 Bは谷底から尾根筋・山頂まで残す所無く全て植林している。良くぞここまで植林したものだという感じで、見事というか恐ろしさも感じる。農林省・営林署の指導と税金を使った補助事業による結果であろうが、生物的・無機的自然環境の破壊とその後に続く自然災害の多発が懸念される。いま少し税金を使ってでも充分な間伐を行い、自然の植生を取り込むのが適当かと思考される。
 Cは鏡野町真経から上流の香々美川流域と、@.B以外の横野川・加茂川流域の山林である。山頂や尾根沿い、一部の山体や斜面に雑木林を残し、その間に植林している。地域によって植林の占める面積比率が異なるが、これは各集落による植林熱の違いによるものであろう。

3).魚類
  川には鮎釣り・引っ掛け・投網などで漁をする人を見かける。また域外から魚釣りに来る人もいるが、その数はめっきり減ったとのことである。部落によっては魚を守り、増殖に努める人も居る。多くの川で昔からの魚が生息しているとのことであるが、ダム建設や平成10年の災害後、魚はめっきり減ったとの話を多く聞く。
 以前は川に多くの魚が泳いでいたが、最近は魚の姿を見ないのが現実である。その原因は農薬使用・浄化槽の下水流入・河川改修・ダム建設・植林などによる複合的な影響が考えられる。しかし、平成10年以降の魚の減少の主な原因としては、ダムの取水と放水による水質・水量変化、護岸・床固工などの障害物による住処や移動障害・産卵場所の減少、および植林による水質・水量の変化が魚の産卵・稚魚の生育に大きな影響を及ぼしているように考えられる。
 本地域の河川は昭和30年頃の姿をとどめた区間も多く、自然豊かで貴重な川である。しかし、ダムによる河川環境の急激な変化と植林による緩慢で継続的な水質・生態系の変化は、確実に魚の生息環境の悪化を生じているものと考えられる。

4).オオサンショウウオの生息
  中谷川および奥津湖より上流の吉井川水系、鏡野町真経より上流の香々美川水系、津川川とその合流点から上流の加茂川水系にはオオサンショウウオが生息しているとのことである。
  筆者は以前旭川水系の調査を実施したが、旭川水系の河川に比べると本地域の河川はいずれも自然環境が良く残っており、オオサンショウウオの住処となる場所が豊富で充分に生息していると予想される。一部の川にはオオサンショウウオの子もいるとのことであり、また出羽川では“魚つかみ取り大会”の河川敷で7匹のオオサンショウウオを確認しており、オオサンショウウオの繁殖地として貴重な環境が保たれているといえよう。
  しかし、魚が減少しているということは、自然環境が失われオオサンショウウオも棲み難くなっているという事を意味しているので、豊かな自然を取り戻すにはどうすればよいか考え、行動しなければならないであろう。



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