10.あとがき


  2009年6月に岡山県真庭市落合垂水から上流の旭川水系の河川と渓流畔林調査を終了したので、それと同一手法により、岡山県東部地域を流れる吉井川の津山市街地から上流域の河川と渓流畔林調査を2009年7月〜2010年7月にかけて実施した。
  旭川は一部の支流を除くと河川改修と護岸整備が良く施工されており、自然の流れは少なく単調な人工の流れの川と化している。このため川に瀬・淵・瀞などの流れの変化は無く、両岸は人工護岸となっているため、川幅の広本流をのぞくと魚やオオサンショウウオの住処になりそうなところはあまり見当たらない状況であった。
  これに対して吉井川水系は人工護岸に挟まれた区間が少なく、川床に自然の岩盤や転石・礫が散在し、瀬・淵・瀞を有する変化に富んだ自然豊かな流れであり、多くの川にオオサンショウウオの生息が認められている。
  吉井川本流の流れる鏡野町の多くの地域は山を全て植林するのではなく、雑木林を適当に残して植林と雑木林が“まだら模様”になる混交林としている。これは表土の流出や斜面崩壊が少なく、山の水源涵養能力を保ち、虫・小鳥・小動物も生きてゆける動植物に優しい環境といえる。しかし鏡野町以外の地域は植林が優勢であり、特に鳥取県境に近い昔ブナ林であった源流域が国有林・県有林・企業林となって全面植林地と化しているのは、生物のみならず河川環境にも大きな負担となっているものと考えられる。
  今回の調査では、魚の生息状況は出来るだけ地元民の話を聞き取るように努めた。しかし最近は魚が減り、川に入る人・魚を捕る人が非常に少なく、魚の生息状況の実態はあまり確認されていない。昔は川面を見ると多くの魚が泳いでおり、小石を投げ入れると餌と思って魚が黒くなるほど集まっていたが、今日は魚を見ることも少なくなった。
平成10年の洪水以降魚がめっきり減少し、今もなかなか回復しないとの話を多く聞く。その原因としては以下のことが考えられる。
  @ダムの建設により川底のごみや泥・石を洗うような出水が無くなり、石に新しい苔や藻が生えなくて魚の餌が減少し、一方で川底の砂泥が流されず川面にヨシが茂るようになった。
  A常時の河川水量が減り、これに浄化槽や下水処理の水が流入し、また渇水期のダムの放流による川床汚染などにより、稚魚や小魚が育たなくなった。
  Bブロック積護岸と落差工が連続的に入り魚の隠れ場所が無くて洪水時に魚が流され、洪水後に魚が遡上できなくて魚の居なくなる川がある。
  C植林のため砂泥が流出し易くなり、川に苔や藻・水草が生えず、虫がいなくなって魚の餌が減少した。
 吉井川水系は人手の入らない自然状態の流れのところが多いが、そのような川でも魚の数が激減している。その原因はダムと植林以外に考えられない。特に植林は、昔ブナ林であった川の源流域を全山植林とするような極端な植生変化が生じている。植林は年々木が生長し、その下の草木が枯れて杉・檜の単相林となり、虫や小鳥・動植物の生きてゆけない自然環境の悪化する方向へと向かっている。植林の充分な間伐によって少しでも山川の自然を取り戻すよう努力すべきであろう。

  本調査はNPO法人エコ・ギアの中原清士顧問、濡木輝一顧問の奨めと指導により行ったものである。現地調査中は加茂郷漁業共同組合長:町田英夫氏を始め地元の多くの方々のお話を伺い貴重な情報を得ることができた。調査の取りまとめとCDの作成にはAR-NET事務局の竹原和夫氏と、NPO法人エコ・ギアの小笠原照也代表理事、福田富男理事、小笠原美子会員および多くの会員の指導と協力を頂いた。ここに厚くお礼申し上げます。
  なお本CDは2010年8月にまとめたものを構成しなおしたものである。その構成作業は高野聖之氏にお願いした。ここに厚く感謝いたします。
                   2012年3月 高野信男 (NPO法人エコ・ギア会員)


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